取組インタビュー#26

22分

乗鞍 Mt.乗鞍スノーリゾート

~松本市民のホームゲレンデを目指して~

極上の雪質が味わえる本格的山岳ゲレンデといわれる「Mt.乗鞍スノーリゾート」では、2023-24シーズンが本格的に始まっています。今回は、最近のMt.乗鞍スノーリゾートを取り巻く状況や課題感、そして未来への展望やそのために取り組んでいることについて、支配人の佐藤聡乃武さんに話をお聞きしました。

各地のスキー場をめぐったからこそ感じるMt.乗鞍の魅力

東京都で生まれ、神奈川県で育った佐藤さんがMt.乗鞍スノーリゾートに赴任したのは、今から5年前。支配人となって今季で3シーズン目です。佐藤さんとゲレンデとの関わりは30年近くになるそう。高校卒業後にスノーボードの魅力にはまり、冬は各地の山へこもり、スキー場やペンションでアルバイトをしながらスノーボードを滑る生活を楽しんでいたそうです。その後、インストラクターの資格を取り、スクールでも働きました。各地の山を渡り歩くなか、「憧れの北海道で滑りたい!」と、札幌に移り住んだ経験もあります。そんな佐藤さんは、5年間、札幌のスキー場で働いた後に、将来を考え職業訓練を受け、システムエンジニアとして札幌の会社に転職。10年間勤めた後、再びスキー場へ転職したい!と5年前にスキー業界へと戻ってきました。

△Mt.乗鞍スノーリゾート支配人の佐藤聡乃武さん

佐藤さん「ある時、いくつかのスキー場が買収されるニュースを知り、情報をインターネットで辿っていくと今の運営会社に行き着きました。直接問い合わせてみたところ雇ってもらえることに。会社は(乗鞍を含めて)4つのスキー場の経営を始めるタイミングでした。」

ほどなくして、当時のMt.乗鞍スノーリゾートの支配人から人手が少なく困っているという話があり、佐藤さんの乗鞍への赴任が決まりました。フットワーク軽く、様々なスキー場を渡り歩いてきた佐藤さんが、乗鞍のスキー場に入ってみて抱いた印象とは……?

佐藤さん「源泉かけ流し温泉つきの宿が周辺にたくさんあるほか、何よりも上質な雪があることが魅力。その割に、他の有名スキー場の様に混雑していない。雪質に関しても、北海道に全く負けていません。北海道でも標高の低いスキー場はあまり雪質は良くありませんが、むしろ、北海道の良質なパウダーと同等のレベルだと感じました。」

スキー場来場者数の推移と課題

日本各地のゲレンデを見てきた佐藤さんが、そのポテンシャルを強く感じているMt.乗鞍スノーリゾートですが、ここ最近は苦戦が続いているといいます。

(写真:スキー場より提供)

佐藤さん「自分の赴任した5年前からの推移は、ゆるやかに来場者数が減少するなか、コロナが来てガクンと落ち込みました。コロナ前は、休暇村ゲレンデと人気コースの一つでもあった鳥居尾根コース(縮小運営のため現在休止中)がオープンしていましたが、その当時で7~8万人。コロナを経て昨シーズンで4~5万人。今シーズンはなんとか盛り返したい。」

その盛り返しをする上で、スキー場の集客に関してどんな課題感をもっているのでしょうか。

佐藤さん「内部環境として、スキー場へのアクセスの改善、設備の老朽化という課題があります。また、外部環境としては、ウィンタースポーツ人口の減少、暖冬による雪不足、社会問題としての人手不足も例外ではありません。単一の企業として取り組める事柄には限界がありますので、各市町村、関連団体と連携して進めて行くことが必要だと感じています。」

これらの課題があるなか、佐藤さんは今年、今できることとして、来場者数を増やすためにいくつかの施策を打っています。その一つとして、スキー場オープン初日、ある声明をSNSにアップしました。

佐藤さん「今シーズンは6万~6万5千人の来場者数を目標にしています。人気の鳥居尾根コースは現在休止中ですが、オープンを待ち望んでいる方が多くいます。そこで、鳥居尾根オープンの目標値を示す事でスキー場としてもずっと閉めるつもりは無く、今後、集客と共に開けて行きたいんだ。というスキー場のスタンスを皆さんに伝える事にしました。」

SNSへ投稿をしたところ、地元関係者を中心にシェアが広がり、佐藤さんの意気込みに対して応援の声など温かいコメントが多数寄せられました。

△地元からの声掛けでクリスマスに行ったサンタイベントも盛り上がりを見せた。(写真:乗鞍観光協会サイトより)

力を入れたい取組み、近隣エリアとの連携体制など

こうした地元からの熱い応援もあるなか、スキー場としての新たな取り組みについてお聞きしました。

佐藤さん「平湯温泉にインバウンド客が多く訪れていると聞き、『手ぶらdeビギナーパック』を企画し、日本語版と共に英語版のチラシを作って平湯の宿泊施設や観光施設に配りました。気軽に体験できるプランなので、たくさんの方に利用してもらいたい。」

△リフト1日券・ギアレンタル・ビギナーレッスンをパックにし、さわんど・松本からの送迎も案内した
https://www.brnorikura.jp/news/60/

このプランの他、平湯方面のスキー場とより緊密な連携ができないかと探っていくなかで、ほおのき平スキー場・平湯温泉スキー場・Mt.乗鞍スノーリゾート3つのスキー場を周って割引をする企画を打ち出しました。

ttps://www.brnorikura.jp/news/86/

佐藤さん「2023年にKita Alps Traverse Routeが制定されたことを受けて、近隣エリア一体となってスキー場を盛り上げられたらと企画し、二つのスキー場に持ちかけました。どちらのスキー場もぜひ!と快い返事をいただき、年明けから始まります。」

他にも、主に家族連れに向けた優先的に駐車場を確保できる「プレミアムパーキングエリア(有料駐車場)」をスタート(12月29日~3/13までの土日祝日)したり、インフルエンサーの活用も検討中ということで、集客力向上を目指して一つ一つ、打ち手を増やしています。
https://www.brnorikura.jp/news/69/

佐藤さん「こういった企画は今シーズン始めたばかりで、一年で形になるとは思っていないが、少しずつつなげていけたら。スキー場の経営という面で課題はたくさんあるなか、一方でゼロカーボンパークに認定された乗鞍高原の地域事業者として、脱炭素化も重要なテーマ。経営面で事業を継続するのがやっとのところなので、切り替えには至っていないものの、クリーンエネルギーの活用や脱プラなどの取組みを引き続き検討していきたい。」

スキー場の経営面だけでなく、地域の事業者としての役割も念頭に置く佐藤さんが、これから特に力を入れて取り組んでいきたいこととは……。

佐藤さん「魅力あるスキー場を維持していくためには、設備更新が一つのキーポイント。トイレ、センターハウス、リフトの老朽化への対応、太陽光などの導入も検討したいことの一つ。更に、降雪量が集客に比例することから、降雪能力をアップさせるためのポンプ関連の整備もしたい。なかなか予算的には厳しいが、魅力あるスキー場になるために、適切な投資は不可欠。」

松本市民のホームゲレンデに

取り組みたいことはたくさんあるけれど、予算や人手などにどうしても制約があるという佐藤さん。そんな現状で、あえて一旦制約を外すと、どんな理想があるのかお聞きしてみました。

(写真:スキー場より提供)

佐藤さん「ベースとなるセンターハウスを整備したい。現在は、やまぼうしと山麓とで上下ふたつに分かれてしまっている。現在のコースレイアウトで下の山麓をベースにすると、初心者が降りて来られないので、鈴蘭コースを拡張して下(山麓)までの初心者コースを作れたらいいですね。もっと制約を外すと、夢の平から山麓までズドンと下りてくるようなコースができたらいいなと。山麓をベースにして、大規模な駐車場も作れたら。究極は、巨額な費用がかかるが、山麓からかもしか山頂まで一本でつなぐゴンドラができたらなという理想もある。そうすると、コースのレイアウトがすっきりとされ、もっと魅力的なスキー場になって、初心者から上級者まで、今よりもっと楽しめるのではないかと思います。」

△今シーズンリニューアルしたスキー場のパンフレット。表紙には、「やっぱり!ここが私のホームゲレンデ」というコピーが書かれている

「松本市民だったらやっぱりMt.乗鞍へ行こう!」と、ホームゲレンデと思えるスキー場になれば嬉しいと佐藤さんはいいます。松本市民に限らず、近年の降雪量の減少やスキー人口の減少によりクローズするスキー場が増えていくなか、標高1500mを越える場所にあり、雪質に恵まれたMt.乗鞍は、今後全国的にみても貴重なスキー場になっていくことが予想されます。少し先の未来へ向けて、日本を代表するスキー場としての基盤を固めていきたいと佐藤さんはいいます。最後に、理想に向けて取り組みを進める上で大切にしていきたいことについて、お聞きしました。

佐藤さん「お客様からも、地元の方からもスキー場に対して色々な意見や提案をいただける。自分達だけでなんとかしようとせず、これからも、皆さんの意向を取り入れることを大切にしたいですね。」

自分達だけで考えていても限界がある。寄せられる意見を精査して取り入れていくことで、きっといいものが生まれていくのではと語る佐藤さん。これからのスキー場について、「こうなったら自分達もお客様も地域の皆さんもきっと嬉しいだろう」という理想とアイデアをたくさん持っておられました。思いついたら即行動というフットワークの軽さとともに、周りの方々の意見を取り入れながら協力関係や信頼関係をつくり、様々な制約を越えていくスキー場のこれからに、ますます期待が高まります。

◇Mt.乗鞍スノーリゾートHP
https://www.brnorikura.jp/

取材日:2023年12月20日
写真:セツ・マカリスター
聞き手・文:楓 紋子

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