取組インタビュー#25

20分

奈川 だいじ屋×ふるさと奈川

~山暮らしの中にある遊びを伝え、山暮らしの価値を伝えるフィールドガイド(後編)~

だいじ屋でアウトドアガイドをする関谷健司さんと(株)ふるさと奈川でウッディ・もっくを運営する小出将司さん、それぞれの奈川への思いや現在の取組みについて語られた前編。その二人がタッグを組み、奈川ならではのフィールドガイドを地域で連携して提供するための取組みが始まっているとのことですが、果たしてその内容や大切にしたいこととは……?引き続きお話を聞きました。

 地域の人が活躍できるガイド組織を

健司さん「まーしー(小出さん)と相談しながら今進めているのは、奈川の達人たちをもっとフューチャーすること。山菜狩り、きのこ狩り、雪山のハイクなどを熟知する山遊びの達人たちを、組織化して受け入れられる窓口を作りたい。その時々でキャスティングして奈川でガイド集団としてやっていくイメージ。今よりもうちょっと地域の人が活躍できる場所を作って、それがどんどん広がっていくような形になればいいなと思っている。」

 小出さん「日常で、自ら自然の中に入っていき、自然の恵みを自らの手で得ることで生活をしている人がいるのが奈川の良さ。そういう人がいなくなっていくと奈川の良さもなくなっていくのではないか。奈川の暮らしを守るためにも、ガイドの仕事ができる人を育成し、地域で組織的に提供できるといいと思っている。」

 とは言え、ツアーを運営するとなると、ノウハウ、保険やリスク管理、集客、販売など総合的にどうマネージメントするかが課題だといいます。

 健司さん「おこがましいかもしれないけれど、ガイド経験を積んできた自分が窓口になるのがいいのかなと思っている。ガイドするプレイヤーをたくさん育成し、僕が仕事をとってきて、その仕事をプレイヤーの誰かに渡す。それが一番スムーズだと思う。」

 これまでも奈川では、地元民による山遊びのガイドを提供する試みをしてきましたが、ほとんどがボランティアでの働きをベースにしていたこともあり、持続可能な形にはならなかったそうです。

 健司さん「やはりボランティアでは続かない。ただ、有償でガイドするなら、それなりのものを提供しなければならないわけで。そのガイド水準を知らない人たちに、まずは僕が必要なことを伝える、そんな研修も必要だと思っている。持っているスキルを活かして対価を得られることは、地域の人のハッピーにつながる。それは僕にとってもハッピーだから。」

本心の自分でいること、自然に近い場所で暮らす意義

地域の人がハッピーでいることが、ご自身のハッピーでもあるときっぱりと断言する健司さん。そんな健司さんが日々、大切にしていることは何だろうと気になり、聞いてみました。

健司さん「やっぱりそれは、『愛』かな。バックパッカーの旅をしていた時、自分をオープンにして、本心の自分でいることを、日常でもどんどん感じられるようになると、心も軽くなり、毎日幸せでいられるのだと気づいた。そして、家族、自分、僕のことをずっと支えてくれている人や、僕にとって重要な人、そういう人への『ありがとう』という気持ちが、ただただあふれ、周りの人との距離感が変わった。多分この信念は僕の中で、ずっと変わらないと思う。その心の在り方や大事にしたい要素を、人とのコミュニケーションを通して伝えられたらという思いがベースにある。ガイドという仕事は、その要素を伝えやすい。コミュニケーションの中で、お互いに与え与えられ、いいサイクルが人との間で生まれて行くようなイメージを持っていて、ツアーに参加してくれた人の人生にも、何かしらポジティブな要素を提供できたらと思っている。」

「まさか、愛の話が出てくるとは……!」と、驚く小出さんも、日々の暮らし方や、そこから巡っていく日本の将来に対して思いを持っています。

△人や自然との丁度良い距離感をそれぞれにつくれるのが現代の山の暮らしのよさだと語る小出さん

 小出さん「奈川のような自然と近い所で、健司君みたいに自分のライフスタイルを創造的につくっていく人たちの生きざまを見ていると、僕自身すごく勉強になるし、身近にそういう人たちがいることが心地いい。情報過多な現代、山での暮らしは過剰な情報から無意識に開放され、心身ともに健康で生物としての人間生活を楽しむことができるのではないか。また、自然との暮らしでは、一人では身に余る事態や状況になったりするので、その時は仲間やご近所さんと協力し合うことが必要であると必然的に感じて、人との繋がりも維持されると思う。自然とつながる暮らしは、人と情報との適切な距離感を保つのに丁度良く、自然と近い所で暮らす人が増えれば、きっと日本全体が良くなっていくと思う。今はテクノロジーが発達したことで、昔と違って人それぞれのスタンスで自然との暮らしをデザインできる。奈川はまさに山の暮らしがある場所で、その価値を伝えやすい。」

こんな考えをもつお二人は、来春の始動に向けて、奈川ならではのガイド組織を運営するためのたたき台をつくるなど、一歩一歩、歩みを進めています。

チーム奈川で進める人材育成

 小出さん「地元の人ならではのガイドを提供したいし、人材を育成して、その受け入れ先や販売先をつくるためにどう関われるかを考えていく中、まずはチームとして自分たち含めて奈川から4人で人材育成の研修を受けに行くことになりました。」

 チーム奈川で参加するこの研修は、環境省主催の『自然資源を活用した上質なツーリズムの実現に向けた人材育成支援事業実地研修』。那須での実地研修のほかに、アドバイザーが実際に奈川に派遣され、現場視察と共にツアーの造成を手助けしてくれ、実行に向けた具体的なアドバイスが入ります。

 健司さん「客観的な目線が地域に加わることで、僕らにもまだ見えてないものが見えてくるのではないか。すごくいい機会。」

 小出さん「こういうことをコツコツやりながら、奈川で一番いい形の何かしらの組織、母体をつくれたらと考えている。」

奈川の理想的な姿って? 

奈川で大切にしたいことをおさえた上で、客観的な視点も取り入れながら、よりよい組織体系や提供するツアーのあり方について模索する健司さんと小出さん。そんなお二人に、5~10年後の奈川で、どんなことが実現していたら理想的と思うのか、最後にそれぞれお聞きしました。 

健司さん「地域に子どもが増えているといい。でも『移住者を増やさなければ!子どもの数を増やさなければ!』と結果を求めすぎて、結局地元の人はおざなりになってしまうのは本末転倒。地域に今いる人が幸せに暮らせる状態がベースにあって、その上で子どもが増えたらと思う。なりわいも含めて、幸せな生活が営める地域であったらいいな。」

小出さん「僕はぐるぐるカフェ(※)で出した数字がいい目安だと思っている。毎年3世帯7人が移住すると500人という奈川の人口をキープできる。そんなに高い目標ではないので、なんとかできるのでは。また、働き方についても、奈川で新しい形が生まれていればいいと思う。例えば農業をやりながらガイドも兼業でするなど、新しい働き方のモデルをつくって、そこに自分自身も関わっていたい。」

※奈川ぐるぐるカフェ…持続可能な奈川地区推進協議会の中での取組み。奈川に住んでいる方を始め、奈川の地域や活動に興味のある方誰もが参加できる場。定期的に開催し、奈川のみかたを増やすため、様々なアイディアを出し合い、活動の輪を広げている。

「やりたいことにとことんフォーカスした結果、奈川にいることが僕ら二人の共通点かもしれない。」と健司さんはいいます。「山遊びをガイドしながら、コミュニケーションを通して愛を伝えたい」という健司さんと、「山暮らしの価値を伝え、自然と関わる人を育成したい」という小出さん。それぞれのテーマがリンクし、かみ合って、奈川に新しい歯車が確実に動き出しています。大事にしたいことを周りに伝えていき、奈川の特色を活かしたガイドツアーを提供することで、提供する人・提供される人両者の幸せにつながり、それを培う地域の幸せや、周りにいる人の幸せにもつながり、それがまた自身の幸せにもつながっていく……。二人がつくろうとしているのは、ガイド組織という形を取りつつも、奈川という地域をベースにした幸せに生きる人の輪を広げるサイクルなのかもしれません。そんなポジティブなサイクルがじわじわと広がっていきそうな奈川から、この先も目が離せません。

◇自然資源を活用した上質なツーリズムの実現に向けた人材育成支援事業実地研修https://ecotourism.gr.jp/moe/?fbclid=IwAR2fQUVcNxY7kUOEUEmrR1AjJ5APqMEoH4XK7UWDOpIv8KZnRraeOLA7FLY

◇だいじ屋
https://daiji-outdoor.com/

◇(株)ふるさと奈川
https://office.furusatonagawa.com/

◇ウッディ・もっく
https://mock.furusatonagawa.com/

◇奈川ぐるぐるカフェ
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/site/chiku-info/109982.html

取材日:2023年11月6日
写真:セツ・マカリスター
聞き手・文:楓 紋子

“取組インタビュー#25” への2件のフィードバック

  1. […] 春夏秋冬それぞれにある山の暮らしの中にある遊びをガイドしたいという健司さんと、奈川にある山の暮らしの価値を多くの人に届けたいという小出さん。この2人がタッグを組んで、奈川ならではのフィールドガイドを地域で連携して提供しようという動きが始まったそうです。その詳しい内容や今後の展望について、後編へ続きます。 […]

  2. […] 取組インタビュー#25 – Alps Sangakukyo Community […]

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