取組インタビュー #06

21分

中部山岳国立公園管理事務所「地域のコーディネーターとして役割を担う」

~世界水準のDestination(目的地)になることを目指して 前編~

アルプス山岳郷エリアの槍穂高・上高地・白骨温泉・乗鞍高原・さわんど温泉は、中部山岳国立公園の南部地域に位置しています。ここでは、北アルプスを代表する雄大な自然のもと、地域の事業者や住民それぞれの営みがあり、毎年国内外から多くの観光客を迎え入れています。

このエリアを訪れる方も、エリア内で事業を営む方も、周辺地域で暮らす方も、個々の活動範囲の中で、国立公園との関わりはあるかもしれません。しかし、普段は国立公園を含めた地域の理想像や、地域の在り方を一個人の立場から「自分の事」として捉えるという機会も少なく、どちらかと言うと遠い話に思えてしまう方も多いのではないでしょうか。

そんな中、このエリアを俯瞰する眼差しをもって日々、中部山岳国立公園を含めた周辺地域の理想像を模索し、その理想を現実のものにするため、取組んでいる人々がいます。その方たちが所属するのは、環境省中部山岳国立公園管理事務所

今回は、安曇地区にある同事務所を訪ね、このエリアに関わる職員の方々にお話を聞いてきました。皆さんの熱意を余すことなくお伝えできたらと、今回は3回シリーズでお届けします。1回目の前編は、所長の森川政人さんからエリア全体の話をお聞きしました。

▲環境省 中部山岳国立公園管理事務所の皆さん
左から大嶋さん、原田さん、所長の森川さん、渡邉さん、服部さん

中部山岳国立公園南部地域ってどんなところ?

▲今年4月から南部事務所の所長になった森川さんと。

楓 森川所長、今日はよろしくお願いします。まず、中部山岳国立公園と聞いてピンとこない方のためにも、中部山岳国立公園の概要について教えていただけますか?

森川所長 はい。中部山岳国立公園は、全国に34ある国立公園の中のひとつで、昭和9年に国立公園に指定されました。公園の全体像は、この地図を見ると分かりやすいかと思います。

▲中部山岳国立公園は北部地域・南部地域を合わせて、全国で4番目の広さがある。

森川所長 中部山岳国立公園は立山・黒部を有する「①立山地域」、槍ヶ岳以北~朝日岳にかかる後立山連峰を境に長野県側の「②後立山地域」、そして槍・穂高連峰の長野県側に位置する「③上高地地域」、乗鞍岳の長野県側の「④乗鞍地域」、そして槍・穂高連峰及び乗鞍岳の岐阜県側の「⑤平湯地域」の5つのエリアで構成されています。多くの方に利用していただいている、日本を代表する国立公園です。

楓 その中で、③の上高地地域、④の乗鞍地域、⑤の平湯地域が南部地域にあたるわけですね。南部地域の特色はどんなところになりますか?

▲3歳と1歳の女の子のお父さんでもある森川所長。休日は家族でエリア内を訪れることも。

森川所長 南部地域は、中部山岳国立公園の中でも特色ある自然環境や自然景観に恵まれています。その他、温泉が点在し、また古くから山岳地ならではの文化が育まれてきた背景もあり、豊かな資源に支えられているエリアです。

楓 私自身も5年前に乗鞍地域に移住してきて、日々このエリアの豊かさを実感しています。見上げるとすぐそばに3000メートル級の山があり、思いついたときに大自然の中に入って楽めたり、四季折々の景観を楽しめること。そしてこの地域に古くから暮らしている方々の自然との関わり方に、いつも感激しています。

▲南部地域のひとつ、山と暮らしが密接している乗鞍高原のようす。

保護と利用のはざまで エリアの方向性を地域と共に探る

楓 ところで、この南部地域の中でも、それぞれの地域によって直面する課題や取組みは様々にあると思いますが、南部地域を統括するお立場から、現在ベースにある方針や今後の方向性をどんな風に考えていらっしゃるのか、教えて頂けますか?

森川所長 環境省としては、これまで国立公園行政のなかで「保護」に関する取組みに大きな比重がありました。国立公園内の許認可権限を担う部分です。しかし現在は、保護だけでなく、「利用」を推進する取組みにも力を入れているところです。

楓 確かに、環境省さんというと、ひと昔前は保護のための取り締まりに力を入れていて、今とは異なり、地元の方々と距離があったと聞きました。現在は地域の中に入っていき、地元の方々と膝を突き合わせて意見交換や、ワークショップ、学習会等も積極的になさっているとか。具体的に利用の推進に向けて、どんな取組みをされているのでしょうか。

▲どんな質問にも気さくに&真摯に答えてくださった森川所長。

森川所長 国立公園を利用しやすくするための取組みになりますが、その取組みの範囲は多岐に渡ります。例えば、バスなどの交通網の整備、車道整備、登山道整備、ツアー企画、宿泊施設に関わる部分や情報発信など。

これらは、当然のことながら環境省がすべての業務を担えませんので、地域の事業者さんと連携を取りながら進めています。その取組みも、個々の課題にそれぞれ独立して取り組むのではなく、いかに個々の課題に対し、関係機関・関係事業者や関係団体をコーディネートしてエリア全体としてまとまって進んでいくかということが大事になってきますね。

世界水準のDestination(目的地)になることを目指して

楓 エリア全体としてまとまって進んでいく…。そのコーディネーターが、環境省さんの立ち位置になるのでしょうか。

森川所長 そこを目指しています。ただし、エリアのコーディネーターと言っても、協力していただく関係者さんとは、それぞれがそれぞれの役割を担う横並びの立場を取っていくことを基本姿勢にしたいです。どちらが上位でどちらが下位ということではないと考えているので。

また、エリア全体として目指すビジョンや方向性を示すことが私たちの仕事ですが、一方で、このエリアの関係各所が利用できるプラットフォーム(※)をつくることも大事なことだと考えています。そのプラットフォームをもとに、目指すべきビジョンに向かってエリア一体となって行動していくことが理想的だからです。

※ 何かを動かすために必要な、土台となる環境のこと

楓 なるほど。環境省さんというと、正直なところ少し遠くて上位的な存在と勝手に感じていましたが、地域が良い方向へ向かっていくために必要な旗振りもしつつ、地域を下支えする役割も担う、縁の下の力持ち的存在なのですね。

▲周辺地域の次なるビジョンを見つめる森川所長

楓 ところで、先ほど「ビジョン」という言葉がありましたが、今このエリア全体を俯瞰して、どんなビジョンを思い描いていらっしゃるのでしょうか。

森川所長 このエリアは、先ほどもお話しした通り、山岳としては控え目に言っても日本で5本の指に入るほど、豊かな自然景観・資源に恵まれています。また、それと同時に、昔から山小屋や登山道整備の文化があり、自然と共に人の暮らしがあるという、自然との共生文化が育まれてきた特別な場所でもあります。そこで、ビジョンとして掲げたいことは、「資源を最大限生かし、古来からある文化との融合をはかりながら、世界水準のDestination(目的地)になること」です。

▲地域の未来像とそこに至る計画がギッシリつまった森川所長のPC

楓 世界水準のDestination! とても壮大なビジョンですね。もう少し詳しくお話をうかがいたいところではあるのですが…。

森川所長 そうですね。私も話し出すと止まらなくなるので(笑)、この辺りで他の職員に代わりたいと思います。

職員の紹介をざっとすると、通称レンジャーとも呼ばれる職員は、中部山岳国立公園内の5つの各地域に1人ずつ配置されていて、計5人(内、南部地域内は3人)。その他に利用推進担当として2人。また、環境省直轄施設の整備を担う職員1人、アクティブレンジャー6人、事務面をサポートする職員2人、そして所長の私も入れた計17名で仕事しています。

皆、個性豊かなメンバーなもので、時に楽しく、時にシビアに業務を進めています。ぜひほかの職員からも話を聞いてみてください。

楓 森川所長の思いや考えを聞かせてくださり、ありがとうございました。

▲西鎌尾根を移動中。槍を始め北アルプスと仕事をしている感覚、非日常の中という感覚を忘れずに。(写真・キャプション共に森川所長提供)


中部山岳国立公園
https://www.env.go.jp/park/chubu/


編集後記
今回のインタビューでは、森川所長から、中部山岳国立公園のエリア全体の概要や方向性について話をお聞きした。最近の社会的な状況の変化のなかで、仕事の在り方や暮らしの在り方、そして自然との関わり方を見つめ直している方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。私自身、地域で事業や暮らしを営む一人として、地域の行く先や、その中での立ち位置を知ることは、「自分がこれから本当はどうしていきたいか?」ということにもつながっていく大事なことのような気が漠然としていました。そんな中で、今回森川所長から、このエリアの特徴や背景を踏まえた上で、全体を俯瞰するビジョンのお話があり、スケールが大きくて圧倒されつつも、どんな未来になっていくのだろうかとポジティブな期待がわいてくるような気がします。

そこで、もう少しその大きな地域のビジョンを具体的に捉えられたらと、少し焦点範囲を狭めて、エリアごとの担当者さんからお話をうかがってみることにしました。その様子は次回に続きます。

楓 紋子

写真:セツ・マカリスター(一部 中部山岳国立公園管理事務所提供)

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