取組インタビュー #08

26分

中部山岳国立公園管理事務所「国立公園のブランド力を底上げするための情報発信」

~世界水準のDestination(目的地)になることを目指して 後編~

今回は、中部山岳国立公園管理事務所へのインタビューシリーズ後編です。

前編では、森川所長から中部山岳国立公園全体の概要やこのエリアがどんな方向へ向かっているかについて、俯瞰的な話をしていただきました。
※前編の記事はこちら
 

また中編では、管轄内でもアルプス山岳郷エリアに該当する「上高地」「乗鞍・白骨」の2つのエリアについて、それぞれの地域を担当する国立公園管理官の大嶋さんと服部さんからエリアごとの方向性や現在の取組み、想いについて話をしていただきました。
※中編の記事はこちら

そして今回の後編では、民間から採用されたお二人の職員の方に、官民を横断する取組みやエリア全体での取組み、ブランド力の向上など、未来へ向けた「国立公園の利用推進」に関する話をうかがうことにしました。

お二人の話から、中部山岳国立公園は、大きな転換期を走っているところだということが見えてきました。

▲環境省 中部山岳国立公園南部事務所の皆さん(テイク3)
左から大嶋さん、原田さん、森川所長、渡邉さん、服部さん

国立公園の利用推進とは

▲国立公園利用企画官の渡邉元嗣さん

楓 渡邉さんは民間からいらしたとうかがいました。こちらに赴任されたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。

渡邉さん 私は、もともと東京で登山専門の旅行会社に勤め、全国の国立公園や山岳地のツアー企画をずっとしてきました。前職では北アルプスの企画もたくさんしましたし、ガイドとして訪れることも多かったため、このエリアは以前より縁の深い場所だったのです。私のポストは国立公園満喫プロジェクト(※)をもとに新しくできたもので、民間での経験がある人材が全国的に採用されています。既存の職員では担いきれない「利用」に関わる部分を企画・推進するのがミッションです。例えば地域外やマーケットとのコミュニケーションや、ひとつの国立公園としての情報発信やブランディングなどですね。

※環境省が推進するプロジェクト。「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき国立公園を世界の旅行者が長期滞在したいと憧れる旅行目的地にするための施策。

▲南部地域の登山情報を英語でまとめたガイドマップ

楓 この中部山岳国立公園での利用推進へ向けた取組みは、今どんな感じで進んでいるのでしょうか。

渡邉さん アルプス山岳郷を含む南部地域では2018年に「中部山岳国立公園南部地域利用推進プログラム2020」を策定しました。公園利用の推進に向けて2020年までの具体的な目標や施策等を整理して、取組みを進めてきました。今年度がこのプログラムの最終年度なので、年度内に総括を行っていくところです。また、次期プログラムとして「中部山岳国立公園南部地域利用推進プログラム2025」の策定に向けて動いています。松本市や高山市にも参画してもらいながら、合意形成に向けて進んでいます。

中部山岳国立公園南部地域の英語ポータルサイトがリリース

楓 利用推進に関わる重点事項を見せていただきましたが、国立公園の情報発信などブランディングに関わる事や、地域企業さんとのパートナーシップに関わる事など、どれも重要度の高そうな取組みが並んでいますね。
中でも最近、中部山岳国立公園南部地域の英語ポータルサイトがリリースされたばかりですが、こちらについて概要を教えて頂けますか?

http://www.chubusangaku.jp/

渡邉さん こちらは、官民の多様な機関が参画している「中部山岳国立公園南部地域利用推進協議会」が運営する英語のポータルサイトです。上高地、沢渡温泉、白骨温泉、乗鞍高原、乗鞍岳、奥飛騨温泉郷、槍・穂高連峰を含む南部地域の利用情報を網羅的に掲載しています。今後このサイトでは、地域内の各団体や事業者さんにも情報発信に携わっていただき、「協働型情報発信」を目指していくところです。

楓 エリアが一体となったプラットフォームがあるというのは、観光者の立場からもエリアを大きなイメージでとらえられて旅の選択肢や実際の旅の充実度が増すでしょうし、事業者にとっても自分の地域の価値を高めることにつながりそうですね。

国立公園の利用推進へ向けて大切にしたいこと

楓:2020年はコロナ禍の影響で、利用推進のお立場からも先の見えない一年だったかと思います。渡邉さんご自身は、今後の利用推進に向けて、どんなことを大切に取り組んでいこうと思っておられますか?

渡邉さん 大切にしたいことは、国立公園に軸足を置いたリレーションシップです。日本の国立公園は、土地の所有者に関わらず公園区域を指定する地域性という形をとっており、関係するステークホルダーが公園管理に参加する協働型管理という考え方が基本にあります。国立公園満喫プロジェクトが始まる以前の国立公園行政は、主に許認可をはじめ公園区域内のステークホルダーとのリレーションシップに重きが置かれていました。

国立公園満喫プロジェクトにおける保護と利用を好循環させるという考えに基づき、公園区域外の関係者や公園利用者となる国民の皆さん、あるいは世界の旅行市場など、国立公園がこれまでなかなかアプローチできなかった多様な関係者とのコミュニケーションを深化させることが重要だと考えています。先の見えない局面だからこそ、多様なリレーションシップを活用し、日本の国立公園の価値を高め、広く伝えていく取組みが必要です。

楓 国立公園の利用推進という大きなプロジェクトであっても、様々な立場の「人と人とのつながり」がベースにあり、国立公園の新しい価値を創り出す源になるというお話に、あたたかい希望を感じます。社会状況がどう変化しようと、大切にしたいことですね。ありがとうございました。

▲登山ガイドの経験も活かして、利用者目線での情報発信に取り組む。
(写真・キャプション共に渡邉さん提供)

最後にもうお一方、渡邉さんと一緒に利用推進を担当する原田さんからも話をうかがいました。

地域の企業・団体と国立公園で密なパートナー関係をつくる

▲利用推進を担当する国立公園管理官の原田純平さん。上田市出身。

楓 原田さんは渡邉さんと一緒に利用推進に取組んでおられるとのことですが、今年度はどんな取組みに関わられたのでしょうか。

原田さん 最近で言うと、中部山岳国立公園パートナーシップの締結に携わりました。昨年12月15日に締結式を行ったばかりです。今回、地元の民間企業や団体11者に中部山岳国立公園のパートナーとなっていただき、国立公園のPRなどを積極的に担っていただくことになりました。国立公園単体での包括的なパートナーシッププログラムとしては全国初の取組みです。全国のモデルとなっていくことを目指しており、パートナーとなっていただける企業・団体を引き続き募集しています。

▲中部山岳国立公園パートナーシップ締結式のようす
(中部山岳国立公園Facebookページより)

※中部山岳国立公園パートナーシップについて詳しくはこちら
※国立公園オフィシャルパートナーシップ(全国版)について詳しくはこちら

楓 国立公園単体としては、全国で初ということで、パイオニア的立場にあるのですね。ところで、中部山岳国立公園のパートナーとなられた企業さんとは今後、どんな関係を作っていこうと考えていらっしゃるのですか?

原田さん 今回、これまで国立公園とは強い関わりはなかったけれど、これから協力関係を強化できそうな企業さんに、具体的な案を提示しながら声をおかけしてパートナーとなっていただきました。好意的に受けてくださる企業や団体さんが多く、ありがたかったです。今回のことをきっかけに、地域の産業と密なパートナー関係を作り、一帯となってエリアのブランド力を上げていけたらと考えています。

楓 ありがとうございます。ブランド力というお話がありましたが、昨年、中部山岳国立公園南部地域の新しいロゴマークがリリースされましたね。こちらもブランド力向上の一環でということかと思いますが、ロゴマーク作成に至った経緯や、今後の活用について教えて頂けますか?

Birthplace of the Japanese Alpsをコンセプトにしたロゴマークでブランド価値を高める

▲山、渓谷、川、星空、そして山岳と日本の伝統的な食べ物であるおにぎりといったキーワードをもとに作られたロゴマーク。

原田さん はい。この南部地域は、なかなか一体としてとらえにくいので、このエリアのコンセプト「Birthplace of the Japanese Alps(日本アルプス発祥の地)」を盛り込んだロゴマークを作成することにしました。地元、乗鞍高原在住のクリエイティブディレクターでもある、セツ・マカリスターさんに協力いただき、コンセプトを目に見える形にしていただきました。まずは地域の方々にコンセプトを伝える「インナーブランディング」の意味合いも大きいのですが、今後、この地域の強みや魅力を体現でき、条件を満たしている事業(製品、サービス、施設、活動等)にロゴマークを使用していただき、地域全体と個別の事業が相互にブランド価値を高めていくことを考えています。

※中部山岳国立公園南部地域ロゴマークについて詳しくはこちら

楓 ありがとうございます。このおにぎり型には山登りの楽しみを象徴する親しみやすさや懐かしさがあり、またこのエリアの奥深さや魅力がつまっていて、素敵なロゴマークですね。地域の事業者が自身の事業運営の在り方に意識的になって、このコンセプトがエリア内に浸透していくと、ますますこのエリアの魅力が増していきそうですね。ありがとうございました。

▲外での仕事以外に事務仕事もあります。普段はマスクを着用。
(写真・キャプション共に原田さん提供)

原田さんはもともとアルピコ交通株式会社の社員さんで、2020年7月から中部山岳国立公園管理事務所に出向という形で赴任されたそうです。お話をうかがうと、もともと地域づくりや地域の活性化に関わる仕事をしたいと思って前職にも入社されたということで、その思いが通じ、現在は利用推進担当の立場から、地域がより良くなるために取組んでおられます。「地域づくり」という胸にずっと抱いていた思いを、ひとつひとつの取組みの成果として地域に還元していく充実感を原田さんの表情から感じるのでした。


編集後記

今回、5人の職員さんからお一人ずつエリアへの取組みに関することをうかがって、私はとても感激しました。日ごろ環境省さんはこのエリアをどう捉え、どういった展望をもっているのかということについて、興味はありつつも知らない部分も多く、また知る前から勝手に壁をつくっていた自分自身にも気づきました。いざ、中へ入ってお一人お一人から話をうかがうと、何よりも取組みのベースに人間味あふれる「熱意」をひしひしと感じたからです。中編で上高地担当の大嶋さんがおっしゃられた「オールNPS(National Park Staff)」という言葉にあるように、それぞれの立場で、それぞれができることをする。環境省の職員さんだけではなく、地域で事業を営む人も、周辺地域で暮らす人も、この地域に訪れる人も、一人一人がこの地域をどうしていきたいかを意識すること、一緒に横並びでアクションを積んでいくことで、地域の未来はぐんぐん変わっていく。そんな希望を感じられるお話が聞けて、私自身も改めて地域への関わり方を考えるきっかけになりました。職員の皆さん、どうもありがとうございました!

(楓 紋子)


▲オールNPSの精神で今日も取組みを進める職員の皆さん

写真:セツ・マカリスター(一部 中部山岳国立公園管理事務所提供)


◆前編「地域のコーディネーターとして役割を担う」の記事はこちら
◆中編「地域の理想を形にし、自然との共生を意識するきっかけをつくる」の記事はこちら

中部山岳国立公園
https://www.env.go.jp/park/chubu/

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